Share

私の居場所-1

Author: suzuki
last update Huling Na-update: 2025-07-22 20:16:10

 公の場での婚約破棄。

 それは顔に泥を塗る行為で、顔を上げられなくなるなどの屈辱だ。

 あの場でテイワズがダグ・ブランドスに言われた言葉は、社交界でのテイワズの看板に泥を塗った行為だ。

 きっと以後、テイワズに婚約を持ちかける話は来ない。

 来たとしてそれは、ブランドス家の豊かな経済状況計算と兄たちの魔術能力を求めるという打算でなければ、よほどの物好きぐらいだ。

 女性として磨くための手習を。

 貴族として繋がるためのサロンを。

 今まで行っていた社交界に繋がるその場所に、もうテイワズは行けない。

 もとより女性のそれはすべてより良い婚姻のためで。それは今となっては──。

(来ないでと言われたわけではないけれど)

 楽器の演奏だったり、刺繍の手習だったり。詩を学ぶサロンだったり。

(言っても、指を指されるだけだ)

 貴族のコミュニティは広い。

 それでも、せめて内密に婚約破棄を伝えてくれれば話は違った。周囲に聞かれても、ああ家の事情で、なんて濁して流せばいい。

 それをしなかったダグは、よほど新しい婚姻を自慢したかったのだろう。なんてったってお姫様だ。

 よほど今までの婚約が不服だったのだろう。魔術要素なしの貴族の娘との婚約が。

 テイワズは部屋のベッドの中で思い返す。

(お姫様の方から、って言ってた)

 だからきっと、しょうがない。オスカリウス家も豊かな侯爵家だが、あまりにも立場が違う。

 明日からどうやって過ごそう。

(……なんて)

 途方に暮れることは──ない。

(調べなきゃいけない。私は私のことを)

 一人で行動できることはむしろ都合が良かった。

 ここ数日立場的にも一人になったテイワズを構っていた兄たちは、明日からは皆通常通り仕事や学校に行くようだ。

「紳士協定を結びました! ティーから声をかけられない限り誘わない連れ出さない!」

 と暴露したのはフォルティだ。

「こぉら、秘密だって言ったでしょー」

「誰のせいでそうなったと思うんですか」

 フォルティに口を尖らせたルフトクスを、ロタが眼鏡の奥の瞳で睨んだ。ルフトクスがヘルフィに視線を送る。

「兄さん激おこだったもんねー」

「……テメェらが盛るからだろ。ばーっか」

 相変わらず口が悪い。その口調で、リーダーシップで、テイワズが家を出てる間に話し決めたのだろう。

「ま、だから安心してねぇ? 今度は許可
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   私の居場所-4

    「ティー。今日も図書館行くのー?」 ふわ、とあくびをしたルフトクスに釣られそうだった。うん、と頷くとロタが眼鏡を押し上げた。「図書館ですか。いいですね」「僕も行きましょうか?」 フォルティがテイワズに聞くと「あー、抜け駆けー」とルフトクスが指差して、下の兄二人の会話が始まる。 それを横目にロタがテイワズに紅茶のおかわりを淹れる。「図書館であれば女性一人でも安心ですしね、変な輩もいないしいいでしょう」 そうですね、とテイワズが頷いたところで、眠そうな顔をしたヘルフィが入ってきた。「おー……」 後ろ手で髪をかくヘルフィに四人はそれぞれ朝の挨拶をする。「ヘルフィ、早く支度してください」 ロタが紅茶を渡して言うと、おう、と返事を一つ。それから砂糖を入れながらテイワズに言った。「あんま出かけんじゃねぇぞ」「え? なにー、兄さんったら過保護ー」 からかったのはルフトクスだ。「一体どうしちゃったのー? 急にそんなこと言うなんて」「……別に急でもねぇだろ」 うっせぇなあ、と言わんばかりの顔に、はいはいとルフトクスが流した。 誰も飲めないほど甘ったるい紅茶を飲むヘルフィにテイワズは笑いかける。「大丈夫ですよ。図書館には親切な方しかいませんから」 今日、赤い髪の男性に会ったらお礼を言おう。 そう決めて、兄たちを見送って、テイワズは昨日借りた本を持って図書館に向かった。「やあ。昨日の本はどうだった?」 かけられた声に驚いて、危うく本を落としそうになった。「昨日の」 赤髪の男性だった。紫色の瞳を人が良さそうに細めて、相変わらず控えめだが質の良さそうな服を着ている。「ありがとうございました。おっしゃる通りでした」 テイワズは微笑みながら答える。「ああよかった」 丁寧な物腰と言葉遣いに、ある程度立場のある人なんだろうな、とテイワズは推測する。「珍しいね。魔術の古にまつわる本を読むなんて──外に出てみるものだ。同じ物好きに会えるなんてね」 物好きなんてひとまとめにされた。 言葉に引っかかるものがあるとはいえ余計なことは言うまい。テイワズは薄く笑う。「もし他にも気になった本があったら言ってよ。話ができると嬉しいんだ」「ありがとうございます」 言葉はそれだけに留めた。社交辞令だろうし、社交の付き合いは今は控えたい気分だ。 淑女

  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   私の居場所-3

    (そうして人々は自然の力の下に繁栄した。日々の糧を喜びとし日常を営んだ……) 本を閉じて、ふう、とテイワズは息を吐く。 あれからフォルティに教えてもらい、本をスラスラ読むことができた。 頻出するその言葉に、フォルティが首を傾げていた。「火、水、大地……それぞれの魔術の要素、力のことをまとめて自然の力と読んでるんでしょうか?」 自然の力。すべてを統べる力。「自然の力ですべてを治め……って、ことはまさか、三大要素をすべて持っているっていうことですかね……?」 ううむ、と唸ったフォルティはテイワズよりも深く思案しているようだった。「自然の力を持つ王が統治する世は太平な世として栄えていった……と、ふーむ」 こっちの方がわかりやすいですね、とフォルティが叩いたのは赤髪の男性に勧められた方の本だった。「しかし、なんで建国にまつわる古代の話や魔術の創生の本なんて読んでるんです?」「ちょ、ちょっと興味があって……」「ふうん。そうなんですか」 テイワズの言葉に、フォルティは引っかかった様子もなく頷いた。「あの一緒に観に行った劇もそうでしたが、やっぱりこういった不作の年はみんな明るい夢のある話が読みたくなるんですね」 ──そう、治安のよかったこの街で、しばしば物盗りが起こるようになったのはひとえに不作のせいだった。 天候不順による不作。人々はそれを王のせいにした。 領主が魔術を使うことにより、大雨時にも災害を防ぎ、害虫の発生も延焼させ対策し、地崩れも塞ぐことができるが──全ての作物を守れるには至らない。 日照りや豪雨は防げない。 大地の力は枯れた草木を甦らせるには至らない。 周りに天才と呼ばれ魔術の能力の高いルフトクスの大地の力でさえ、花一輪咲かせるのが精一杯。本来草木の成長までは操ることができない。 同じ大地の魔術を使うエイルでさえ、それをできない。とはいえエイルは地を揺らし割ることができ──破壊力という面では兄弟一番であった。「一人で複数の魔術要素を持つとか、第四の元素があったとか……」 フォルティは読んだ本を撫で、観た劇を思い出し、テイワズに呟いた。「人は夢を見るのが好きですね」 フォルティとの会話はそれで終わり、戻ってきた兄たちと食事をして寝支度を整え、そして寝室で一人で過ごす今に至る。 そうだ、夢みたいなできごとだった。目

  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   私の居場所-2

     フォルティと足を運んだ劇場がある広場の周辺に目的の場所もある。歩いて遠いわけではないが、出かけるならくれぐれも馬車に乗らせるようにと御者は言われていたらしい。──ヘルフィに。 馬車が止まって、開かれた扉に礼を言いながら降りた。「では、こちらで待っておりますので」 御者に会釈をして、テイワズは長い階段の先にあるその建物に入る。 ムスペル国立図書館。 この国一番の蔵書量を誇る図書館だ。 目的は魔術の要素、魔力について──自身に起きた出来事について。 図書館に入り魔術の本が置いてある一画へ進む。 魔力がある者は貴族ばかりで、貴族は魔術の学校に通うことになっているので、わざわざ魔術の本を探しに図書館に来るものは少ない。 知は財産とされており、貴族の多くは資産でありコレクションとしても多くの本を所有しているから、そうそう足を運びに来る必要もない。 庶民の姿は多く、女性も多い。館内は立場や権力と画された世界。広く開けられた間口の中は知識への探究。(……探すべきは、魔術の種類? 学術書?) 自分の背丈以上の本棚を見ながら、どの本を開くべきか思案する。 いつか自分は嫁ぐ。嫁ぐ相手は家のことを考えると、確実に貴族だろう。ならば魔術を使えるだろう。そう思って、魔術が使えないテイワズなりに勉強はしていた。 しかしそれは学舎で得られるほどのものではない。本をなぞっただけ。表面上の会話がなぞれるだけ。 火、水、大地の魔術。三つの魔力。有用な使い方やその魔術の行使により起きた出来事などはあった。 魔術は古くからあったもので、それ故に当たり前に生活に密着していた。それ故か魔術の歴史という文献は少ない。あっても、貴族に魔術師が多い理由、なんて程度の項目だ。(探してるのはそういうものじゃない) 例えば。 そう──例えば。(フォルティお兄様と観た劇のように) 第四の魔術要素なんて。 そんな言葉が書かれた学術書や歴史書を探してみるが、そんなお伽話の記載はない。 そうお伽話だと思っていた。昨日までは。

  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   私の居場所-1

     公の場での婚約破棄。 それは顔に泥を塗る行為で、顔を上げられなくなるなどの屈辱だ。 あの場でテイワズがダグ・ブランドスに言われた言葉は、社交界でのテイワズの看板に泥を塗った行為だ。 きっと以後、テイワズに婚約を持ちかける話は来ない。 来たとしてそれは、ブランドス家の豊かな経済状況計算と兄たちの魔術能力を求めるという打算でなければ、よほどの物好きぐらいだ。 女性として磨くための手習を。 貴族として繋がるためのサロンを。 今まで行っていた社交界に繋がるその場所に、もうテイワズは行けない。 もとより女性のそれはすべてより良い婚姻のためで。それは今となっては──。 (来ないでと言われたわけではないけれど) 楽器の演奏だったり、刺繍の手習だったり。詩を学ぶサロンだったり。(言っても、指を指されるだけだ) 貴族のコミュニティは広い。 それでも、せめて内密に婚約破棄を伝えてくれれば話は違った。周囲に聞かれても、ああ家の事情で、なんて濁して流せばいい。 それをしなかったダグは、よほど新しい婚姻を自慢したかったのだろう。なんてったってお姫様だ。 よほど今までの婚約が不服だったのだろう。魔術要素なしの貴族の娘との婚約が。 テイワズは部屋のベッドの中で思い返す。(お姫様の方から、って言ってた) だからきっと、しょうがない。オスカリウス家も豊かな侯爵家だが、あまりにも立場が違う。 明日からどうやって過ごそう。(……なんて) 途方に暮れることは──ない。(調べなきゃいけない。私は私のことを) 一人で行動できることはむしろ都合が良かった。 ここ数日立場的にも一人になったテイワズを構っていた兄たちは、明日からは皆通常通り仕事や学校に行くようだ。「紳士協定を結びました! ティーから声をかけられない限り誘わない連れ出さない!」 と暴露したのはフォルティだ。「こぉら、秘密だって言ったでしょー」「誰のせいでそうなったと思うんですか」 フォルティに口を尖らせたルフトクスを、ロタが眼鏡の奥の瞳で睨んだ。ルフトクスがヘルフィに視線を送る。「兄さん激おこだったもんねー」「……テメェらが盛るからだろ。ばーっか」 相変わらず口が悪い。その口調で、リーダーシップで、テイワズが家を出てる間に話し決めたのだろう。「ま、だから安心してねぇ? 今度は許可

  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   真昼の帰宅

    「ティー! お帰りなさい!」 馬車が止まるとすぐに、家の中から駆け出してきたのはフォルティだった。「心配しましたよ!」 紫の髪をなびかせて走り寄ると、馬車から降りたばかりのテイワズの両手を取った。 赤い目はヘルフィと同じ色なのに、形が違う。 優しげに弧を描いた赤い目。 フォルティに掴まれたテイワズの手の上に、骨ばった細い指の手が触れた。「ほら、離しなさい。ティーが驚いていますよ」 ロタだった。二人の手に重なるように自分の手を置いた。黒髪が日差しに青く透ける。 そしてその後ろから、少しのんびりとした口調がかけられた。ルフトクスだ。「そうだよー、フォルったらー」「兄様のせいでしょう!」 振り返ってフォルティの手が離された。 一拍遅れて、一秒。青い目に笑みを残してロタも手を離した。 後ろから現れた茶髪が柔らかく揺れて、金色の目が細められる。「待ってたよ、ティー」「ルフお兄様」 呼べばまるで許されたように歩み寄ってきた。 余計な言葉はお互いなかった。「ただいま」「おかえり」 心地の良い風だった。陽の光は温かく、四人の兄は一様に微笑んでいた。「さ、紅茶を淹れましょうか」 ロタの言葉に頷いて、家に入った。 たった二晩。されど長い夜をいくつも越えて、旅を終えたような感慨があった。 ロタが先頭を歩いて、ルフトクスとフォルティが並んで歩く。その後ろをティーはついていき、一番最後にヘルフィが歩いている。 靴音がいくつも響いて、いつも食事をする部屋に入った。 兄たちは椅子にテイワズを座らせると、まるでもてなすようにキッチンに立った。 一人座るテイワズの隣に、ヘルフィが音を立てて座った。「なんで兄さんまで座るわけー?」「うるせぇ」 まあいいけど、とルフトクスが言って、そんなルフトクスに向かって、紅茶を取ってくださいとフォルティが言った。「お待たせしました」 青と赤の目の前で、ロタが紅茶を注いでくれる。 やはり蒸らし時間は少し少ない。茶葉と一緒に入られたシナモンの味わいは少なかったけれど、砂糖をたっぷりと入れたヘルフィには関係なさそうだった。

  • 婚約破棄された私に五人の兄が求婚してきます! 〜愛してはいけない確率は五分の一〜   長男・ヘルフィ-2

    * 体が大きく揺れた気がして、テイワズは目を開けた。「起きたかよ」「お兄様」「おう」 声は真横からだった。身を預けるようにヘルフィに寄りかかっていたようだった。自分の頭がヘルフィの肩に乗っていたことを理解して、慌ててテイワズは身の回りを見渡す。 馬車の中にいた。倒れた自分を運び乗せてくれたのだろう。この行き先は、家以外にないだろう。「……魔術はそれなりに負担がかかる。何年か経ちゃ慣れるが、反動の大きさは……そりゃ……まあ、個人差だが」 突然話出されて、何を言ってるのかわからなかった。それが自分のための説明だと理解するのに数秒かかった。「魔力が強いほど反動も大きいってのが一般的だな。まあフォルは例外だが。あいつは魔力も大けりゃ天才でなんも反動がねぇ。俺様やロタ……ルフなんかはやっぱそれなりに疲労がでるよ」 知らなかった。 知識としては知っていたが、体を覆う重さまではやはり知らなかった、と思う。寝たことで幾分かは楽になったが、まだ重たさの残る体に、ヘルフィの話を実感する。「エイルは知らん。アイツ魔術使った後はその姿を見せたくねぇのか隠れがちだったしな。そもそも学校もサボりがちで使うことも少なかっただろうし」 関係ないと思っていた魔術の話が、今自分の身に降りかかっている。 望んでいた。魔力があることを。貴族の子供として。しかしその要素が──未知のものだとは。思いもよらなかった。それはあまりにも望外。 魔力は血。魔力あるものは自然と、子供が歌を覚えるように、年齢が片手ほどを過ぎると魔術が使えるようになる。 自分は?(発火や水、大地を操るなんて、できなかった。だから魔力がないと思っていた。けれど)「……けどテメェのチカラがどんなもんかはわからねぇ」 ヘルフィの言葉を聞きながらテイワズは考える。(もしかして、知らないだけで魔術を使ってた……? だって、風は目に見えない。それじゃ、気づかない)  もしかして。テイワズは思い至る。(今までも、魔力があって魔術を使っていたのを気付かなかっただけ……?) 考えながら続くヘルフィの言葉を聞く。 それでも、とヘルフィは続けた。「隠した方がいいだろう」 魔力があると言えば婚約破棄もなかったのだろうか、と一瞬頭によぎった。 すぐにその考えを振り払う。今更だ。「倒れるほどの魔力だ。そう

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status